今年の3月にX-Pro2が発売され、9月にはX-T1の後継機X-T2が発売される。富士フィルムがダブルフラグシップと位置づける2機種が新しくなったことは、Xシリーズが一回りし、次のステージに突入したことを意味する。
この流れに乗って手持ちのX-Pro1をリプレイスしたいところだが、購入を後押しするような理由(言い訳)が見つからない。両機種とも大変良いカメラに仕上がっているのに、燃え上がるような物欲は、今のところ湧いてこない。
X-Pro1を使い続ける理由
ダメな部分にも慣れてしまった
ひとつにX-Pro1に慣れてしまったことがあるだろう。
発売当初はペケプロと呼ばれるほどクセの強いカメラだったが、バージョンアップを重ねるにつれ、”普通”に使えるカメラになっていった。
多少の不便さは残っているけれど、4年間使い込んだことで、今では良き相棒となってくれている。数多くの思い出を共にし、二人三脚で頑張ってきたという思いが、これまで使ってきたどのカメラよりも強い。
画質に惚れて購入したカメラ
画質については、初めから一貫して満足している。
高感度番長と異名を持つほど高ISOでの写真が美しく、同時代のライバル機からは頭一つ抜けている。X-Pro1の前に使っていたカメラがマイクロフォーサーズ機だったこともあって、ISO3200が破綻なく使えることに”革命”を感じたほどだ。
またネットにアップされているX-Pro2の作例を見てみても、X-Pro1より明らかに勝っているようには感じない。画素数が約1.5倍になったので精細感こそ差を感じることもあるが、僕の目では、どちらも”綺麗な写真”としか判断できない。ある意味、残念な話なのだが。
まだまだ高値のX-Pro2
最後はコストの問題。
執筆時点でのX-Pro2の実勢価格は、おおよそ16万円(本体のみ)。X-T2の初値も同じぐらいだと言われている。
仮にX-Pro1を下取りに出すとするならば、こちらも執筆時点で25,000円ほど(参考:マップカメラ買取査定)なので、差額は135,000円にもなる。この金額を出すのなら、XF56mmF1.2 R APDを揃える方が作品の幅が広くなるのでメリットが大きいように思う。
スペックや使い心地など、総合的に考えた時、X-Pro1からX-Pro2への移行タイミングは差額が10万円を切った時ぐらいというのが僕の見立てである。お金がいっぱいあれば、話は別なんだけど。
X-Pro1の能力に限界を感じる部分
そんなわけで現役続行中のX-Pro1だけど、不満に感じる部分がないわけではない。それは随所にみられる”動作の遅さ”だ。
慣れたとは言いつつも、GX8(Panasonic)なんかを触ってしまうと、やっぱりうらやましく思ってしまう。
あちらは撮影者の思うがままにキビキビと反応し、ピッと一瞬で合焦する。「あのカメラだったらもっといい写真が撮れるんじゃないか」などと淡い幻想を抱いてしまう。
以前、X-Pro2を触ったときにも同じ感想をもった。
体感的にはスピード200%アップだったのだが、実際X-Pro1とはどれだけの差があるのだろうか。X-T2も含めまとめたものが下の表。
【起動時間】 | 【AF速度】 | 【シャッタータイムラグ】 | 【撮影間隔】 | |
X-Pro1 | 0.5秒 | 0.1秒 | 0.05秒 | 0.7秒 |
X-Pro2 | 0.4秒 | 0.06秒 | 0.05秒 | 0.25秒 |
X-T2 | 0.3秒 | 0.06秒 | 0.045秒 | 0.17秒 |
起動時間・AF速度・シャッタータイムラグに関しては、大きな差があるわけではないようだ。AF速度とシャッタータイムラグについては、人間の限界反応時間が0.1〜0.2秒ということから考えても、差はわずかに思える。
圧倒的に差がついているのは、”撮影間隔”だ。
撮影間隔とは読んで字のごとく、「1度目の撮影から2度目の撮影ができるまでの時間」のことをいう。デジタルカメラはフィルムカメラと違って、画像処理や記録メディアへの保存など、シャッターを押した後に色々な作業で時間を費やす。その作業スピードが撮影間隔に影響を及ぼす。
X-Pro1とX-T2では、その差は0.53秒にもなる。足の速い(50mを8秒で走る)小学生なら3m以上進んでしまう計算だ。次の撮影準備が整うころには、完全にフレームアウトしまっている。
X-Pro1を使っているときに感じるあの”ひと呼吸置く感じ”は、撮影間隔が原因だったのだと、今はじめて知った。
X-Pro1を使い続けるために
X-Pro1ののんびりした性格は、もはやどうすることもできない。
くり返し言うが、これでも改善に改善を重ね、ここまでたどり着いたのだ。ハード的にもソフト的にも、これ以上のことを望むのは少々酷な話である。
それでももう少しだけ、X-Pro1で写真を楽しみたい。せめて上の息子が50mを8秒切るまでは。そんな思いから学んだ撮影方法がある(3step)。
[Step1]被写界深度をなるべく深めにとる
まずはできるだけ被写界深度が深めになるように、”絞り”と”被写体との距離(間合い)”を調整しよう。
被写界深度とは、ピントを合わせた部分を中心に、前後のピントが合っているように見える範囲のことをいう。
絞りを開け(絞り値を大きく)れば、被写界深度は浅くなり、ピント範囲は狭くなる。反対に、絞りを絞れ(絞り値を小さく)ば、被写界深度は深くなって、広い範囲にピントを合わせることができるのだ(厳密にはピントの合う位置は1点のみ。被写界深度が深いと、あたかも広い範囲でピントが合っているかのように写る)。
被写界深度は絞り値以外にも、レンズの焦点距離や撮影距離によっても変化する。
被写界深度 | ||
浅い | 深い | |
絞り値(F値) | 小さい(絞りを開く) | 大きい(絞りを絞る) |
焦点距離 | 長い(望遠レンズ) | 短い(広角レンズ) |
撮影距離 | 近い | 遠い |
いろいろな要素が絡むので、被写界深度を完璧に理解するのは難しい。けれども日中の屋外、スナップ用途で撮影するなら、次のように割りきってしまえばいい。
・撮影距離はレンズの焦点距離(35mm判換算)
これなら覚えやすく、瞬時に設定が可能だ。
手持ちのXF35mm F1.4を例に説明しよう。
XF35mm F1.4の最大絞り値はF16。絞り環をオート(Aマーク)まで一気に回し、1クリック分戻せば設定完了。わざわざ絞り値を見なくてもいい。このスピーディさは、アナログ的操作体系にこだわったXシリーズの魅力のひとつである。
Xf35mm F1.4は35mm判に換算すると、焦点距離約53mm。なので被写体との間合いを5mほど取れば、前方約3m〜後方∞(無限遠)まで被写界深度を得られる計算になる。
これだけピントの合う(ように見える)範囲が広ければ、子供が動きまわる程度の撮影では苦労することはない。
[Step2]親指AFでピントを固定
被写体との間合いが決まったら、その位置でピントを固定してしまおう。
AFロックの弱点
ピントを固定するには、「AFロック」という方法がある。
シャッターボタンを半押しすることでピントを合わせ、完全に押し切るまでピント位置を保持してくれる。AF機構を持つカメラなら当たり前に搭載されている機能なので、カメラを持っている方なら知らない人はいないと思う。
この便利なAFロックだが、ひとつ問題点がある。
一度シャッターを切る(あるいは指を離してしまう)と、次に撮影するときには再びAFが作動してしまうので、ピント位置がズレてしまうのだ。一枚だけ撮影する場合はいいのだが、同じ間合いで何枚も撮影しようとする場合には不向きな撮影方法といえる。
AF速度&精度に長けたカメラなら何とかなるかもしれない。けれどもX-Pro1のAF能力では、取り逃すことの方が多いだろう。僕は何度も失敗をしてきた。
じゃあどうするか?
プロも使う技、その名も「親指AF」
ここは「親指AF」というテクニックを使ってみよう。
X-Pro1では、
- 前面のフォーカスレバーを「M(マニュアルフォーカス)」に切り替える。
- 被写体もしくは[Step1]で決定した距離に位置する物体にAFポイントを合わせる。
- 背面の「AE-L/AF-L」ボタンで合焦。
一度合焦してしまえば、指を離してもピント位置は固定されたままになる。何度シャッターを切ろうが、撮影距離は変わらない。
いわゆる「置きピン(任意の位置にピントを固定する技)」とも呼ばれるテクニックだが、シャッターを切るのは人差し指、ピント合わせは親指で行っていることから「親指AF」と呼ばれている。
親指AFを使うことによって、撮影者は構図とシャッターチャンスにのみ集中すればいい。AF速度というカメラのスペックに依存する必要がないので、X-Pro1のような型落ちのモデルでも十分使いものになるのだ。
[Step3]連射で一気に撮影
ここまで準備ができたら、あとは絶好のタイミングを狙って一気に連射する。
X-Pro1の連射能力は、6コマ/秒。
E-M1なんかだと10コマ/秒なので、決して優秀とは言えない。けれども、上述の足の速い小学生なら1mほどしか進まないので、十分射程圏内におさめることが可能だ。
連射撮影するならSDカードの性能は重視しよう
連射撮影は、SDカードの書込&読込速度が影響するので、
- スピードクラス:Class10
- 最高転送速度:30MB以上(6コマ/秒×約5MBの写真)
のものを使用することを強くおすすめする。
ちなみに僕が使っているのは、サンディスクのSDカード。
これよりも性能が高いExtreme PROというシリーズがあるが、値段も高いことなのでこちらにした。かれこれ4年間使っているが、転送速度はもちろん、エラーのひとつも起こることなく、平穏無事に使えている。
あとがき
X-Pro2という後継モデルが出たことによって、X-Pro1は生産完了となった。日進月歩のデジタルの世界で、実に4年もの間、ハードウェアの変更は行われなかったのだから誰もが納得の引退だと言える。
これだけ長く現役を続けてこれたのは、”ハイブリッドマルチビューファインダー”や”ダイヤル操作への拘り”など、オンリーワンの魅力をいくつも備えていたからだと思う。
フィルムカメラを模したようなこれらの特徴は、ただ単に模したのではなく、”写真を撮る”という行為の原点に立ち返ったときに、必然的な選択だったのだ。
何でもオートのカメラに比べると小難しいものに思えるかもしれない。けれどもこれから写真を始める方にとって、X-Pro1のこうしたフィルムカメラ的な部分は、撮影を楽しくて仕方がないものにしてくれるはずだ。
発売当初は13万円(ボディ)だった値段も、現在では8万円ほど(流通在庫のみ)。中古であれば5万円ほどで購入できる。これならビギナーにもためらうことなくおすすめできる。なにせ画質は今でもトップクラスなのだから。
中古でお探しならマップカメラがおすすめです。