普段、自宅で食べている食パンは、ホームベーカリーで作った自前のもの。焼き立ての風味を楽しんでいます。
もっと美味しくならないものかと、強力粉の種類を変えたり、材料の配分を変えたりしながら、ゆるーく試行錯誤を繰り返してはいるのですが、限界を感じています。
そもそも自分の中に「目指すべき”理想”の食パン像」がないのがいけません。やみくもに”美味しい”だけを基準にしても、理想にはたどり着かないというもの。
というわけで、まずは世間で人気の食パンはどんなものか、食べ比べすることにしました。
「乃が美(のがみ)」vs「一本堂」
今回購入したのは、高級”生”食パンで名を馳せる「乃が美」と、食パン専門店で全国にフランチャイズ展開をする「一本堂」です。
サイズ、重さ
左が「乃が美」の食パンで、右が「一本堂」。
「乃が美」の食パンは、もちろん「生食パン」。これ1種類しかありません。「一本堂」の食パンには、いくつか種類がありますが、比較のために、最もベーシックな「一本堂食パン」を選びました。
両方とも一斤サイズですが、「乃が美」の方がほんの少しだけ小さいです。
膨らんだ生地が、しぼむことなく焼き上がったのが「一本堂」で、落ち着いたのが「乃が美」といったところでしょうか。
袋に入れたまま、それぞれ重さを測ったところ、「乃が美」は386gで「一本堂」は458gでした。およそ20%の差ですね。けれども持ってみて、ズシリと重みを感じるのは、両方に言えることです。
焼き色
外観にも明らかな違いが見られます。
まず焼き色ですが、「一本堂」の方がより濃く色付いています。「乃が美」に比べて、焼く温度が高いのか、あるいは焼く時間が長いからなのか。真相はわかりませんが、焼き方に違いがあるのは確かなようです。
また焼き色が付いていない四辺の白い部分が、「乃が美」は広範囲に及んでいます。側面部分は上方につれ、広がっていることが見て取れます。型いっぱいに生地が膨張せず、焼き上がったのではないかと推測します。
テクスチャ
表面を拡大した写真。上が「一本堂」で、下が「乃が美」です。
肌理(きめ)の細かさについては大して違いがあるようには思えません。若干「一本堂」に生地ムラがあるかな、といった感じ。
ですが、触ったときの感触は全然違います。「一本堂」はサラリとしていてドライな感じですが、「乃が美」はしっとりしていてウェットな触り心地。透明袋にも少し湿り気が残っていたので、両者の水分量には随分と差があることが推測できます。
余談ですが、「乃が美」の表面に見える斜めのスジは、おそらくクーラー(網)の痕。冷ます時にわざと斜めに置いているのでしょうか。不思議と、オシャレに見えてしまいます。
切りカス
切った時にも、違いを発見。
上の写真は、それぞれ真ん中に包丁を入れた時のものですが、切りカスが多く発生したのは「一本堂」の方でした。
切り心地についても、「一本堂」はガタガタした感じがし、「乃が美」は包丁が吸い付くような気持ちの良い感触です。
うちのパン切り包丁の切れ味が悪いおかげで、この発見に繋がりました。いやいや、研ごうよ、というツッコミが聞こえてきそうですが、パン切り包丁を上手く研げる自信がありませのでご勘弁を。
断面
おかげで断面はこのありさま。こんなに乱れていては、比べようがありません。
次の日、もう少し切れ味がマシな包丁で切った断面がこちら。こんな画像をさらしておいて言うのもなんですが、断面から見える肌理は、さほど変わりがないようです。
それよりも、1日置いた「乃が美」の縮み具合に驚きます。水分が抜けたのか、空気が抜けたのか、またひとまわり小さくなっています。
同梱されていた説明書きによると、
乃が美の食パンは1日置くことにより味が落ち着き、本来の甘みや風味が引き立ち、より美味しくお召し上がりいただけます。
とあります。美味しさ的には、この状態がベストということですね。
味、香り、食感
それでは本題です。
乃が美の「生食パン」
まずは乃が美の「高級生食パン」から。
強い香り
ファーストインプレッションは、香りがとっても強いことに驚きました。袋を開けた瞬間から、小麦の良い香りが辺りに漂います。パン屋さんに居る時のように。
口に含むと、香りは一層強く感じられ、噛むほどにその傾向は増していきます。
匂いに鈍感な妻も驚いていたので、かなりのものだと思います。
耳まで柔らかい、しっとりした食感
外観チェックからも分かるとおり、しっとりウェットな仕上がりです。裂いた生地が、最後まで細く引くもっちりさ。
中はもちろんのこと、耳までしっとり柔らかいのですから、二重にびっくりです。しかも実質1mm程度という薄さ。普段、耳部分を残しがちな下の子も、丸ごとパクついていました。この耳だけで商品になるんじゃないか、と思うほど美味しいです。
ほんのりした甘み
ハチミツが混ぜ込んであるため、ほんのりした甘みがあり、何もつけなくても十分な旨味を感じることができます。むしろ、そのまま食べる方が美味しいかも。
「素材本来の旨味と甘味を引き出した」と宣伝する食パンは数あれど、言葉通りだと納得したのはこれが初めてです。
こだわりのひとつに「焼かずに食べても美味しい」とありますが、焼くとさらに美味しくなります。香りがパワーアップし、表面はサクッ!中はモチッ!として、焼く前とはまた違った美味しさを楽しむことができます。僕は、焼いたものがおすすめですね。
一本堂の「一本堂食パン」
続いて、一本堂の「一本堂食パン」。
穏やかな香り、確実な風味
「乃が美」のような、バーンと広がる破壊力はないものの、小麦の香りはしっかり感じ取ることができます。
風味についても、使われている原材料の素性の良さがストレートに伝わってくるような、しっかりとした味わいです。
軽いけど、食べごたえあり
サイズや重量から、もっとずっしりした食感を想像していましたが、良い意味で裏切られました。
きちんと発酵が進んだ生地は空気をほどよく含み、口当たりは軽い。それでいて噛めばもっちり感があるので、食べごたえとしては十分満足いくものです。
THE食パン
「乃が美」同様、そのまま食べても美味しいのですが、やっぱり焼いた方が風味は増します。違うのは、耳はしっかり、中はサックリすること。いわゆるトーストです。ハムや野菜など、他の具材をしっかりと受け止めてくれる度量を感じます。
言ってしまえば、「一本堂食パン」は「THE食パン」なんですね。いつもの食パンの延長上にある、ちょっと良い食パン。
ハイ・ベーシックモデルというか、お米で言えばコシヒカリのような立ち位置。きちんと主食を張れる食パンです。
そういう意味では、大阪の「成り松」も美味しいです。
「嵜本(さきもと」はちょっとね。
あとがき
たまたま選んだ2軒の食パン専門店でしたが、方向性としては真逆の2軒でした。
未踏の味を求めるなら「乃が美」ですが、毎朝食べても飽きが来ないのは「一本堂」なのかもしれません。
どっちが作ってみたいかと自問すると、やっぱり「乃が美」のような食パンかなぁ。
[追記]パナソニックから、家庭用ホームベーカリーで作る「おうち乃が美」のレシピが公開されました。本家の高級「生」食パンのレシピではなく、乃が美が家庭用にアレンジしたものです。
実際に作ってみた記事はこちらです。
食パン専門店の食パンについて、他の記事は以下からどうぞ!